緑の悪霊 第4話 |
ルルーシュは、スザクの気が済むならと悪霊の捜索を承諾してくれた。 だが、その顔は悪霊なんて欠片も信じていない事は明白だった。 非科学的なことなど、自分の目で確かめない限り絶対に信じないのがルルーシュだ。 本当にそんなモノを信じているのか?お前、軍務に忙殺されて空想と現実の区別が出来なくなったのか?と、疑いと心配の眼差しを向けられるので「大丈夫だよ、僕も悪霊なんて信じてないから」と心の中で返事をしておいた。 痩せたのは、単純に食事の量が少ないだけだと思っている。 普段から食事の量が少ないのに、何かに熱中しすぎて更に少なくなったのだろう。 食事の量さえ戻せば体重は増えるだろうから心配もしていない。 寝不足も同じ理由。 恐らくは寝不足と栄養不足で疲れやすくなっているのだろう。 ・・・その位、俺にだって解ってるって。 スザクはルルーシュに気づかれないように口元に笑みを浮かべた。 昨日、ランスロットの整備待ちをしていると、親しくなった技術員が暇つぶしにと、成人男性向けマンガ雑誌を数冊貸してくれた。 その中に幽霊に取り憑かれた美しい女性が、幼馴染の男性を襲うという物があり、幽霊を成仏させるために(以下成人指定)・・・という話だった。 そこまで読んで、これは使える!と思ったのだ。 もちろん取り憑かれているのはルルーシュ。 その悪霊を払う幼馴染は僕。 さらには僕は神社の息子。 完璧だ。 これは僕達のためにある設定じゃないか!そう思った。 悪霊を理由に、まずは普段は見られないあらゆる場所を探索しようと、ワクワクしながらルルーシュの部屋へと向かった。 ルルーシュも男だし、まずはベッドの下からと考えていると、ルルーシュは自室の部屋の扉を開けた後、普段ではあり得ない早さでその扉を閉め、ロックをかけた。 そしてその姿のまま完全に停止した。 ・・・まさか、僕がこれからしようとしている事に気がついた? いや、あり得ない。 ルルーシュの前では好青年で通しているし、彼の前で猥談だってしたことはない。 誰よりもルルーシュの信頼と友愛を受けている自信がある。 ハッキリ言えば、ナナリーの次に僕のことが大好きだ。 身内以外で一番好きなのは僕。 そんな僕を警戒するはずがない。 となると別の理由だろう。 「ルルーシュ?」 後ろにいた僕は、何してるの?と言う様に小首を傾げながら尋ねた。 自動ドアで出来る動きじゃなかった気がするが、まあ、ルルーシュの部屋の扉だから、彼が何かしらの防衛策のため弄っていてもおかしくない。 問題は、どうして閉めたのか、だ。 「いや、何でもないんだスザク。それより、先に他の部屋から見ないか?」 こちらに体を向けると、いつもの笑顔でそう言った。 今の行動の後の、あまりにも自然なその笑顔は、残念なことに胡散臭く見える。 しかも妙に声が大きい。 明らかに、動揺していた。 「どうして?」 「俺の部屋は、ほら、散らかっているから、片付けてからじゃないと」 「僕は気にしないよ?」 寧ろ散らかっている部屋が見たいな。 なんて言ったら軽蔑されかねないから言えないけど。 「俺が気にする!」 だから、他に行くぞ! ルルーシュはそういってスザクの腕を引っ張った。 声の感じから、かなり切羽詰っているように見える。 何処か潔癖症なところがあるルルーシュだ。 もしかしたら朝寝坊して、慌てて登校したのかもしれない。 いつもはベッドのシーツでさえピンと綺麗に敷かれているのだが、今日は寝乱れている可能性は高い。 あるいは、僕に見られたくない何かが出しっぱなしに・・・? 何だろう? ・・・ま、まさか、僕の写真とか? 一人寂しい夜に僕の写真で・・・待ってルルーシュ、そんな勿体ないことしないで僕を呼んでよ!僕は、俺は、ルルーシュならいつでも大歓迎なのに! ああもう、これは何が何でも中を確認しなければ!! ピンクな妄想が暴走し始めたスザクは、腕を引くルルーシュを止めた。 「いいから、入ろうルルーシュ。今更僕に隠すことなんてないだろ?見せてよ?」 じゃなきゃ、僕が開けるよ? 力づくでね? にこにこと穏やかな笑顔で言ったのだがその目は笑っておらず、異様な空気をまとっているスザクの姿にルルーシュは思わず息をのんだ。 ******** その頃のルルーシュの私室。 カーテンが閉められた薄暗い部屋の中は、ピザのにおいが充満していた。 ソファーの上、テーブルの上、更には床の上に雑誌やら何やらが落ちており、良く見るとお菓子の食べカスらしきものも床やテーブルの上を汚していた。 まだ寝るには早いという時間だというのに、ベッドの上がこんもりと盛り上がっており、先ほどのドアの開閉に気付いたのか、その山はもぞもぞと動き出した。 そして眠い目をこすりながら視線をドアへ向けた後、ゆっくりと室内をぐるりと見回したのだが、誰も居なかった。 「・・・なんだ、ルルーシュが戻ったのかと・・・」 もぞもぞ。 なら二度寝するか。 もぞもぞ。 「いや、何でもないんだスザク。それより、まず他の部屋から見て行かないか?」 いつになく大きな声で話すこの部屋の主の言葉に、一気に眠気が吹き飛んだ。 「スザク、だと?」 まさか、今そこにいるのか奴が。 慌てて身を起こし、C.C.はハッとなった。 身につけているのはルルーシュのシャツ。 自分の服はルルーシュが壁に掛けたりしているが、着替える暇はなさそうだ。 テーブルにはピザの箱(今朝買ったもの)と炭酸飲料の空の缶。 ソファの上には各種雑誌と新聞がごっちゃりと乗っていた。 それらは床にも散乱している。 ・・・全てルルーシュが登校した後、C.C.が散らかした物だ。 まずい。 この部屋は明らかにルルーシュの普段の部屋とかけ離れていた。 暫くの間途方に暮れた後、・・・まずは、下を履こう。と立ち上った。 大急ぎでクローゼットを開け、ルルーシュのスラックスを取り出す。 ちなみに下着は着けている。ルルーシュのだが。 さてどうする私。 二人が話す声を扉越しに聞きながら、C.C.は冷や汗を流した。 ********* 「だがスザク!俺はあんな汚い部屋は見せたくはないんだ!」 まさかC.C.がいまだ寝ていたとは思わなかったルルーシュは、慌てていた。 どうにかここからスザクを離し、C.C.を起こして移動させなければ。 「いいじゃないか。君の汚い所も全部見せてよ」 ルルーシュの腕を捕まえ、部屋のドアへ押しつけるような体制で、スザクは若干おびえを含んだその瞳を見つめながらにっこりと微笑んだ。 怖い。 何か知らないが、スザクが怖い。 顔は笑顔だが、目が笑っていないし、その目がまるで別人のように見える。 いつもの穏やかな光をたたえた深い緑ではなく、獰猛な野獣の鋭い眼光のようだった。 普段、戦闘中ですら感じない異質な恐怖から、ぶるりと背筋が震えた。 「お兄様?スザクさんもいるのですか?」 世界一愛らしい声(ルルーシュ談)が耳に届き、萎縮していた思考が一気にそちらへと向かう。慌てて声のする方へ視線を向けると、階段下に花のような笑顔を向けたナナリーがこちらを伺っていた。 |